ダンスミュージックの「ライブ」はそのイメージに問題を抱えている。00年代初頭のAbletonの登場によって、数多くのプロデューサーがMIDIコントローラーとラップトップだけでスタジオで制作した作品をパフォーマンスすることが可能になり、これが最も簡単で、且つ低コストでクラブミュージックをクラブに持ち込む方法として浸透してきたが、イメージの問題はAbleton自体にあるのではなく、「アーティストがソフトウェアを使っている姿」にある。オーディエンスはギターを掻き鳴らす、またはドラムを叩くといった、所謂「アーティストが楽器を演奏する姿」が確認できないと、一体何を見に来たのかわからなくなってしまう時があるというわけだ。

今年ロンドンで開催されたEther Festivalで、我々はそのような典型的なダンスミュージックのライブパフォーマンスの概念を越えたライブに出会うことを期待していたのだが、ApparatとMount Kimbieは自分たちがスタジオで制作したサウンドをバンドという形でプレイすることで、全く違う観客層にアピールすることに成功しており、Bass ClefとEkoclef（Bass ClefとEkoplekzの共同名義）はアコースティックとエレクトロニックを組み合わせながら、即興性にフォーカスしたパフォーマンスを繰り広げていた。またBrandt Brauer Frickは10人のバンド編成を取っており、シンセサイザーをハープやチェロ、チューバなどに次ぐ脇役として扱っていた。彼らはラップトップの使用、不使用の間に存在するその問題については全く気にしておらず、彼らの表現方法は「新しいものを想像したい」という情熱だけによって生まれたものだということは、ここに記しておくべきことだろう。

Mount Kimbie

Dom Maker: 最近僕たちはライブの取り組み方、そして考え方についてちょっとした見直しをしたんだ。初期のEPやファーストアルバムに収録されている作品のライブでは、僕とKaiだけで全てプレイできるように調整して、基本的に作品通りに再現しようとした。でも毎回プレイする度、そして曲に展開をつけたり、付け加えたりしようとする度にライブが少し大げさになり過ぎてしまうことに気がついた。多分ライブを数多くこなしすぎて、シンプルなセットに少し飽きてしまった部分があるんだろうね。

僕たちは新曲の制作中だけど、その影響で曲のライブでの再現方法を変えようとしている。Ether Festivalではドラマーを入れた。だから当然僕たちがこれまでやってきたものとはかなり違うサウンドになっている。今までのように僕たち2人が機材を前にしていただけの時とは違って、バンド的な要素にチャレンジするのにはパーフェクトな環境になっていると言えるね。勿論機材も相変わらず使っているけれど、今まで以上に「ライブ」にしようという気持ちが強くなっていると思う。

ドラム／パーカッションは僕たちが良く知っている友人に頼んでいる。そして新曲の多くではKaiがヴォーカルを担当しているし、あとは生のベースも多少盛り込んでいる。使っている機材自体は以前とあまり変わらないけれど、セット全体には当然変化が生まれた。ドラムが入ったことで常にシーケンスを組む必要が無くなったから、自由度が増えたように感じているよ。バンドみたいにジャムが出来たり、曲を作れたりするのは嬉しいね。僕たちにとってそういう形で曲作りをするのは元々大事なことだったからね。

クラブでDJに挟まれてライブをするのをやめて、フェスティバルに出演するようになった時に大きなポイントを迎えたんだと思う。フェスティバルは他のジャンルの「バンド」が沢山出ていたからね。あとはヘッドライナーを務めるようになって、DJ以外にもサポートされる必要を感じて、かなり努力した。The XXがバンドと一緒に演奏している姿は僕たちに大きな影響を与えたよ。そういうフェスティバルのようなステージに立ったことが、ライブアクトとしての僕たちに役立ったと思っているし、他のジャンルからのファンを獲得できたんじゃないかと思っている。

Brandt Brauer Frick Ensemble

Paul Frick: 最初はできる限り「ライブ」にしようと思っていたんだけど、僕たちの音楽は余りにも沢山の要素が入っているから、同時に全てを演奏することができないってことに気が付いた。だからすぐに10人でやるというアイディアが生まれたんだけど、まずはクラブ向けの僕たちだけのセッティングをどうするかを考えることにしたんだ。Danielが自分の演奏した音をアサインして鳴らせるようにしたドラムパッド、そしてJanがキーボード、主にNord Waveを担当して、あとは僕がKorg Groove BoxやKorg ESXを担当するようにした。これが最初のセッティングだったんだけど、上手くいったんだ。当時はテクノのクラブでプレイしていたし、機能的なセッティングにする必要があったからね。

アンサンブルの場合、セッティングは、バイオリン、チェロ、トロンボーン、チューバ、ハープ、ピアノ、Moog、それにドラムやマリンバ、ビブラフォン、ティンパニなどのパーカッションという編成になるんだ。パーカションは3人で担当しているよ。あとはゲストヴォーカルを加える時もある。今回のEther FestivalでもスウェーデンからErika Janungerに来てもらっているんだ。

Daniel Brandt: 勿論ラップトップは使いたくないって思っていたよ。そういう形をとにかく目指していた。本当のライブができるようにしたかったんだ。ラップトップだけでも良いライブをするアーティストもいるけれど、ライブだと思えない時があるし、何をやっているのかオーディエンスが理解できない時もある。音楽自体は複雑に聴こえるかもしれないけれど、Ableton上でただアレンジを切り替えているだけかもしれない。だから僕たちはそうならないようにして、自分たちの「演奏」に集中しながら、客の様子も見られるような形にしたかった。客と僕たちの間にディスプレイが入らないようにするってことさ。

Paul Frick: 面白い話だよね。心理的な要素が大きく関わっていると思う。ミュージシャンを見て「こいつは音楽を勉強してきたな」と思えると、凄くそのミュージシャンのことを尊敬する人がいる。多くのミュージシャンは音楽の勉強なんてちゃんとしたことないから、笑っちゃうけどね。僕が言いたいのは、人や社会はそういうミュージシャンに対しては「本物のミュージシャンだ」と思うのに、ラップトップを使ったライブに対してはそうは思わないということさ。そして僕はこういう考え方には全く賛成できない。僕はラップトップを使ったミュージシャンのことも尊敬しているからね。

（座席に座っているオーディエンスに対する演奏は）いつも変なテンションになるよ。それが良い方向に働く時もあるけどね。ロンドンで金曜日に演奏した時は、オーディエンスに少し動きが出てきた時は良かったと思えたし、座席からオーディエンスが立ち上がってダンスしてくれた瞬間もあったよ。

Bass Clef / Ekoclef

Ralph Cumbers: Bass Clefの最初のライブは俺が2004年にロンドンに戻ってきた後にやったんだ。それ以前は、ブリストルで同じようなライブをRLF名義でやっていたんだけど、ブラスセクションやターンテーブル担当と一緒にライブをしていた。でもロンドンに戻ってからはまた1人でやらなければならない状況になったから、名前をBass Clefに変えて活動することにしたってわけさ。それまでは他に4人のプレイヤーがいたから、1人だけになるのは凄く怖かったよ。だから自分で何か常に触っているライブ形式になったんだ。俺はコンピューターを持っていなかったから、トロンボーンやパーカッション、それにドラムマシーンなんかをプレイして、常に動き回っている感じだね。

個人的にはラップトップをプレイするというライブセットは、オーディエンスを即座にある「状態」に固定してしまうと思うけれど、楽器の演奏はそうじゃない。俺みたいに楽器が下手でもそこは変わらないね。楽器を演奏すると違ったエネルギーが生まれるんだ。俺にとってはライブパフォーマンスというのは凄く特別なもので、その場に適した雰囲気を生み出せれば、その瞬間にいる感覚が生まれる。音楽的に大きなエネルギーを客に与えることができて、それを客が自分に戻してくれれば、気持ちよいフィードバックループが生まれる。これは凄くパワフルなんだ。俺がラップトップでその感じを生み出せるかどうかは分からないな。勿論出来る人もいるだろうけれど、俺はどうやったらいいかわからないね。

（Ekoclefのライブは）とにかく即興だよね。まだやり方を模索している段階だと思うけれど、プレイする度に良くなっていると思う。別にリハーサルもしたことないし、色々長々と話し合ったこともないけどね。凄く直感的なものなんだ。NickがEkoplekzとしてライブをする時も通常は完全な即興だし、彼もこの方法に満足しているよ。

俺のライブはありとあらゆることを披露する感じだから、ロックバンドの後にプレイしたり、子供が走り回って叫んでいるフェスティバルの早い時間帯でプレイしたりしたけど、俺は気に入っているよ。サウスバンクセンターでジャズミュージシャンと一緒にやったこともあるね。あれは凄く良かった。あとはアカデミックな感じのアートフェスティバルにも出演したし、でかいサウンドシステムが鳴っている汗ばんだ地下で朝4時にプレイしたこともあるよ。

Apparat

Sascha Ring: ライブは時間をかけて、変遷していった「結果」だと思っている。というのは、俺の趣向は時間と共に変化してきたからね。原因は俺がライブをやっていく間で飽きてしまうところにあるから、エゴイスティックな変化とも言えるな。今もしステージに俺1人だったら、腕は2本しかないし、もうこれ以上できないって思っちゃうね。1人で素晴らしいライブをする人もいるけれど、俺は常にループをプレイして、ミキシングをしているだけだって感じていた。俺はその方法のライブを長くやり過ぎていたから、何か別の方法を探していたんだけど、それが人を集めてバンドを組むということだったんだ。

俺は今までバンドでプレイした経験が無かったから苦労したよ。俺はエレクトロニック専門だからね。だから最初はガリ勉みたいにどうやってバンドが機能しているのか、どうやってコンピューターで作った曲をライブ用に構築していくのかを学んでいったけど、コンピューターで作ると、曲の中のトラック数は70とか80とかになるわけで、それをバンドで表現しようとするのは簡単じゃなかったね。5～6人のバンドでは同時にそんなに多くのサウンドを鳴らせないわけだから、曲のアイディアの中心だけを削り出す必要があるんだ。

俺たちは通常は6人編成だ。俺はヴォーカル兼ギターで、ヴォーカル用のエフェクトも担当しているけれど、ギターはコンピューターを通して鳴らしているから、ギターの音には聴こえないね。それからキーボードが2人。1人は俺と一緒に制作をしているNackt。彼のプレイするピアノも同じようにコンピューターを通して強烈なエフェクトをかけている。彼は状況に応じてギターもプレイするね。もう1人はBenだ。彼はシンセサイザーを全て担当していて、片手でベースライン、そしてもう片方の手でパッドをプレイする。それからドラマーのJörg。普通のアコースティックのドラムセットとドラムパッドを担当している。あらかじめプログラミングしてあるループをプレイすることが許されているのは彼だけだ。他のメンバーはループを使うことは禁止されているんだ。残り2人はストリングスで、チェロとバイオリンだ。彼らは遅れてバンドに加入した。俺たちは最初4人でバンドをスタートさせて、それから彼らを加えたんだけど、彼ら2人は伝統的なプレイヤーじゃないから凄く満足している。俺たちよりも彼らの方が持っているエフェクターの数が多いんだ！