CTMは、他に良い言葉が見つからない為に仕方なく"フェスティバル"と呼ばれている。ベルリンで毎年開催されるこのイベントに行ったことのある人はきっとこう言うだろう。CTMは、単にアドベンチャラスな音楽を面白いヴェニューで紹介するだけではなく、そういった音楽をサポートすることが目的なのだと。このことは、音楽とアートには挑戦がつきものだという観念を持ち、アーティストに自らの限界を超えようという勇気を与えられるような環境があってこそ実現する。今年のテーマは"Un Tune"。主催者によると、「習慣的であり、共通の認識を一時的に不安定化することによって解放される可能性、そして包括的なメタファーを意味している」とのこと。分かりやすく言えば、CTMは我々に1週間の自由な音楽体験をさせてくれ、この世にどれほどの可能性が存在しているのかを気付かせてくれるのだ。

結果として、しばしばとんでもないことが起きる。UKのアーティストKevin MartinことThe Bugの例を見てみよう。Martinは妥協のない爆音パフォーマンスで有名だが、CTMでは更にその先の、終着点と言えるであろう"サイレン"が鳴り響いた。彼は自身のカスタムメイドサウンドシステムとBerghainの強力なシステムを繋ぎ、45分間に渡ってサイレン、フォグホーン、そしてピュアな低音周波数を放ち続けた。Martinはなかなか喜びを見せないことで有名だが、さすがに今回の出来事はグッときたようだ。彼は翌日、自身のFacebookページにて「地球上で最も孤独な音波が、ボーイング747に乗ってステージから離陸していくような感じだった」と投稿している。「夢が実現して最高だよ。」

CTMは上述のような瞬間が満載だ。全8日間に渡り開催された今年のプログラムで、DownwardsのデュオOAKEは現代ダンスパフォーマンスのサウンドトラックを担当し、Emptysetはラジオベースの新作ライブパフォーマンス"Signal"を披露。Raster-Notonの創設者Frank BretschneiderとベルリンのサウンドアーティストPierce Warneckeは、彼らの最新プロジェクト"SINN + FORM"を初公開し、モダングライムアーティストのLogosとMumdanceはShapednoiseとタッグを組み、コラボレーション作"The Sprawl"を初披露した。同時に、デイタイムプログラムではパネルディスカッション、インタビュー、エキシビジョンが行われた。そして毎年恒例となっている、Create Digital MusicのLeslie GarciaとPeter Kirnが1週間に渡り開催する制作ワークショップのHacklabも忘れてはならない。CTMは単なるフェスティバルではないーそれは、音楽のアイディアが生まれる実験の現場であり、アーティストとオーディエンスが楽しみながらも新たな発見ができる場所なのだ。

Daytime /

CTMのメイン会場は、クロイツベルクにある19世紀の荘厳な建物の中にあるカルチャーセンターKunstquartier Bethanienだ。ここではエキシビジョンやアートインスタレーション、レクチャー、パネルディスカッション、インタビューが行われ、その内容はデジタルDJから「1960年代から80年代におけるソビエト連邦での音楽体験」にまで多岐に渡る。一方、Native Instrumentsのオフィスで行われるMusicMakers Hacklabでは、参加者が音楽制作機材で少し変わった体験をするー例えば、"バイオフィードバックシステム"や"データソニフィケーション"、"人感センサー（ガルバニック皮膚反応、心電図、脳電図、眼球運動、血圧、呼吸、筋音図）"を用いるのだそうだ。このプロジェクトはイベント最終週、HAU2という劇場で開催されたコンサートTuning Machines Finaleにて初お披露目となった。

Concerts /

CTMのメインパフォーマンスの多くは、クロイツベルクの運河沿いにある劇場スペースHAUと、HKW（世界文化の家）を舞台に行われた。HAU2では、オーディエンスが真っ暗な円形劇場の中に置かれたクッションに身を投げ、ステージを見たり、目を閉じたり、あるいは天井を見つめたりしながら、TeZやTCFといったアーティスト達のサウンドを思い思いに楽しんでいた。すぐ隣にあるバルコニー付きの木造劇場HAU1には、EmptysetやCraig Leonらが登場。そして街の反対側にあるHKWでは、Atom TMやRobin Fox、Frank Bretschneider、Pierce Warneckeらがオーディオヴィジュアル・パフォーマンスを披露した。

Clubs /

夜になると、CTMはクラブへと会場を移す。Berghainは長年に渡り、CTMの会場の1つとしてその神聖なダンスフロアを提供しており、そこでは普段よりもアヴァンギャルドなサウンドが鳴り響く（The Bugの音の弾幕を含む）。レゲエクラブYAAM（以前はベルリンの公共施設であったMaria Am Ostbahnhof内にある）では、最初の週末にSOPHIE、OAKE、Concrete Fenceらが登場、次の週末にはYung Lean、Gravity Boysらがプレイした。そして例年同様、フィナーレとなるコンサートはAstraにて行われ、今年はCarter Tutti Void、Mumdance/Logos/Shapednoiseによるコラボパフォーマンス、そして最近世界で注目度急上昇中の日本人トリオ、にせんねんもんだいが出演した。それでもまだ遊び足りない人たちは、Urban Spreeにて行われたアフターパーティーでPalms Traxxのプレイを楽しんだようだ。