5月10日、日曜日の午後の早い時間、Dixonとして知られるDJのSteffen Berkhahnはナポリ・カポディキーノ国際空港内の荷物受取所で携帯電話を見つめていた。彼は落ち着いているように見えた。平然としていたと言えなくもなかったが（普段の彼はそうであることが多い）、実際のところ、彼は全くリラックスした状態ではなかった。荷物受取所にいることも、その理由の一部だった。ギグを重ねながら20年という月日を経て、彼の旅行術は完ぺきに磨き抜かれており、通常であればこのような事態は起こるはずがなかった（乗客につき手荷物1個のみ許される飛行機に彼が乗っていたのは、本特集記事の目的のためだった）。前日の夜、しっかりと睡眠を取れていなかったことも関係していた。ロッテルダムで午前7時半にプレイを終了した彼は、シャワーを浴びて少し横になるくらいの時間しか無く、10時半にはナポリに飛んでいた。しかし、そんなことは今に限ったことではない。睡眠不足を単に職業上の問題としてBerkhahnが捉えるようになって何年にもなる。彼が本当に気を揉んでいたのは、Gloria Ahlersから受け取ったばかりのメールだった。彼女はInnervisionsとその関連プロジェクトを管理運営する主要人物だ。

「今から酒を飲んでおいた方がいいってGloriaから言われたよ。会場に着いたら楽しく飲めないだろうからって」とBerkhahnは言う。会場とはナポリ郊外にある国立公園、Mostra D’oltremare Laghetto Di Fasilidesのことで、その日、パーティであるLost In A Momentが開催される場所だった。「何か問題があったのか彼女に聞いてみたら、『全部が問題』って返ってきたよ」

彼女は冗談を言っているだけなのでは？「たぶんね」と彼は微動だにせず言う。

1時間後、シャワーを浴び、緩めのバーガンディシャツ（比較的、地味目のチョイスだ）を身に纏ったBerkhahnは、Hotel Palazzo Esedraの大理石のロビーに入っていった。片手に握られていたのは彼と旅を共にしている機材用バッグだった。ヘッドフォンとUSBスティックが入った「DJクラッチ」と呼ばれる小さなレザーバッグだ。 2人組ユニットÂmeのひとりであるDJのKristian Beyerはコンシェルジュデスクで何かに対して笑っていた。ソファーに腰を掛けていたAhlersがBerkhahnに向かって微笑んだ。その隣に彼が腰かけると、彼女はハンドバッグからペローニのビールを取り出した。Berkhahnはムッとした表情になり「マジで？」と口にすると、彼女はうなずいた。彼はため息を漏らしビールを受け取った。

ふたりは悲劇的な雰囲気になることが多い。Lost In A Momentはリスクの高いアイデアをコンセプトにしていた。そのアイデアとは、既に確立されたクラブではなく、クラブ目的で使用されたことがない会場を敢えて選ぶことだった。どんな問題が起こり得るのか分からない。例えば、会場が思っていたよりも従来のクラブに近かったり、警備員が少し乱暴だったりと、細々とした問題が発生する時がある。しかし、壊滅的な問題が発生する時もある。6月と7月にバルセロナとアムステルダムで予定されていたLost In A Momentがキャンセルになったのだ。どちらのケースも地元当局が突如、会場の使用許可をはく奪した（アムステルダムのケースはイベントの数日前の出来事だった）。こうした不安定な状況のため、余分な業務が数多く発生し、関係者はストレスや、時として失望を抱くことになる。それにより出費がかさむことは言うまでもない。出演予定だったアーティストのほとんどが出演料を辞退しても、Lost In A Momentは赤字になることが多い。

しかし、その見返り（鮮烈な野外のロケーションで熱心なオーディエンスと一緒に味わう一体感のあるパーティ）は抗えない魅力を持っている。Innervisionsの立ち上げ当初からファミリーの一員であるケルンのDJ兼プロデューサーのMarcus Worgullは次のように語る。「ナイトライフで大事なことは特別な瞬間を味わうことなんだ。いい感じのムードを作れなかったり、何かしらの理由で自分のセットを気に入らなかったり、それなりのDJセットに落ち着くことがあったりすると思うんだけど、すべてが完ぺきで、とても特別な夜になることってあるでしょ。でも、そうした完ぺきな瞬間でも、いつまでも記憶に残り続けるハイライトってなかなか無いんだ」

ダンスミュージックがひとつの芸術形式として人々を魅了しているのは、そうした瞬間があるからだが、そこまでに至るのは時代の変化と共にますます難しくなってきているようだ。Innervisionsが広く愛されている理由はここにある。自らのレコードやパフォーマンス、そして、パーティにおいて、彼らはそうした瞬間を自分自身だけではなく、オーディエンスのためにも生み出そうと真剣に考えている。

彼らの音楽を聞けばそのことが分かる。機能性によって特徴付けられるジャンルにおいて、Innervisionsはフルオーケストラ並みのサウンドを届けてくれる。彼らのレコードやDJセットは、高らかと鳴り響くストリングスやアクロバティックなアルペジオ、臆することなく表現されるエモーション、そして、シネマティックなアレンジで満載だ。このスタイルは万人受けするものではない。しかし、彼らのファンにとって、Innervisionsのアーティストは一貫して非凡な存在であり、疑り深い人ですら彼らの活動は見事であることを認めるだろう。おそらくこの点こそ、Dixonと meがRAのDJ/Live Act Pollに常に登場し続け、最終的にトップにまで上り詰めた理由だろう。

2014年を振り返ったRA Exchangeでは、数人のスタッフが彼らの人気の理由について考えを巡らせたのだが、それから数週間後のベルリンにて、私たちは最も大事なことに触れていなかったとBerkhahnに言われた。Lost In A Momentだ。彼が言うには、Lost In A MomentでプレイするアーティストはDJとして非常に貴重な機会に恵まれているのだそうだ。つまりそれは、多くのクラブやフェスティバルよりも記憶に残り心が動かされる環境でプレイする機会が与えられている、ということだ（さらに端的に言えば、Berghainのレジデントであれば素晴らしいギグに恵まれる利点がある、というのと同じだ）。それにより、アーティストはさらに面白い音楽をプレイし、オーディエンスにさらに大きな感動を届けることが可能になるのである。

同日の午後、会場に到着したが、みんなが何を心配していたのか分からなかった。Mostra D’oltremare Laghetto Di Fasilidesは素晴らしいロケーションで、緑が生い茂る広大な公園には、ガチョウが歩き回り、池には小さな城が建っていた。どうやら「アフリカの帝国都市ファジル・ゲビのゴンダール城と同城のスイミングプールを忠実に再現したもの」だそうだ。その日の午後は暖かく爽やかな風が吹き、ダンスフロアは陽気なナポリ市民と若者で溢れていた。ステージ上では、パラソルの影でWorgullが裸足でDJをしていた。彼は到着する友人たちに微笑みを投げかけ、Berkhahnはステージに上がり彼と抱擁を交わした。Berkhahnがオーディエンスの視界に入ると、波のように歓声が上がり彼は恥ずかしそうにそれを受け止めていた。

その日の午後はいい具合に展開していった。DJの順番を丁寧に決めていたことが、その理由のひとつだ。目玉であるBerkhahnはWorgullの直後にプレイし、パーティを序盤から盛り上げていた。どのクラブやフェスティバルでも大抵、目玉となるアーティストは常に最後にプレイするため、このようなスケジュールを組むことは難しいだろう。公園の周りに生えていたヤシの木の向こう側に太陽が差し掛かり、夕暮れ時になるとReconditeがライブセットを行った。会場に到着する頃にプレイしているのはReconditeだろうと、それまで勝手に思っていた私は、誤ってその旨を口にすると、Berkhahnが次のように語った。「冗談でしょ？　Lorenz（Recondite）がこんな時間にプレイする訳ないでしょ。それは大間違いだよ」。今の私にはそれが何故だか分かる。スムーズで鬱蒼としたメロディーが特徴的なReconditeの音楽は、涼しくなった夜の空気に完ぺきにマッチし、Dixonの豪勢なパーティチューンの後の雰囲気を見事に落ち着かせていたからだ。

Reconditeのセットの序盤、体を上下に動かす彼の横から二筋の白い光が空に向かって照らされた。その正体はInnervisions屈指の照明スタッフRobert Grunwaldだった。この夜、彼が自分の存在を主張した最初の場面だった。GrunwaldはPanorama Barでも照明を担当している他、Berghainで行われているInnervisionsのパーティ、Überallでの働きぶりにより、彼らの遠征時における照明スタッフの座を獲得した。Reconditeがしなやかでムーディーなセットへと深く潜っていくにつれ、Grunwaldは前述のスポットライトふたつをオーディエンスに向けて可動橋のように角度を低くしていった。最初のクライマックスがやってきたのは、その夜の最初のビッグチューン”Levo”がプレイされた時だった。ReconditeがInnervisionsから発表したアルバム『Iffy』に収録されていたメランコリックに躍動するトラックだ。

Beyerは3時間に及ぶソロセットによりパーティをホームの空気に変えた。彼は序盤、クラウトロック的なエッジを持った直線的で拡散していくハウストラックをプレイし、その2時間後にはInnervisionsからリリースされたAndre Lodemannの新作”Leaving The Comfort Zone”といった色鮮やかなトラックを通じてピークに向かって上昇していった。終盤、Berkhahnがステージ上に現れ、Beyerと共にバックトゥバックする頃になると、高台になっている場所が複数あるフロアでは多くの人々が踊っていた。アーティストを含め、パーティに携わっていたスタッフや、何らかの形で再び会場に訪れていた不特定多数の人々すべてが踊っていたのだ。スタッフ全員が視界の中にちらつく大勢の人々の表情を眺めていた（Grunwaldに至っては照明を使って実際にオーディエンスを照らしながら眺めていた）。そして遂にパーティが終了すると、DJたちは笑顔で自撮りをし、裏口で彼らを待っていたバンに颯爽と乗り込んだ。

その20分後、みんなは路面のピッツァリアに座って寛いでいた。その店は彼らだけのために営業を続けてくれていた。ウェイターのひとりはムール貝が入ったバケツをその場に置き、Berkhahnを指さしてイタリア訛りの乾いた調子で「Dixonだ」と口にしていた（その後、彼もBerkhahnと一緒に自撮りをしていた）。長いテーブルでピッツァと魚介類を食べ、ジョイントをみんなで回して吸いながら、スタッフたちはアフターパーティに行くかどうか話し合っていた。もしかしたら、誰か少しだけプレイさせてもらえるんじゃないか？　という意見も挙がった。しかし、最終的にその夜はそれでお開きになった。結局、BerkhahnとBeyerは早いフライトでベルリンに戻った。その日の朝、学校が始まる前に自分の子供たちに会うためだ。大抵の月曜日、彼らはそうするようにしている。

Beyerは次のように語る。「月曜日は娘を幼稚園に連れていくんだ。最高の瞬間だよ。3,000人が雄叫びを上げる中、クレイジーな週末を過ごして、その翌朝には普通に地下鉄に乗っているんだから。『ああ、これが現実だよな』って思うよ。それ以外は単なる幻想に過ぎないんだ」

ピッツァリアのテラスに座りながら、私は安堵している自分に気づいた。当初の心配をよそに、パーティは成功した。しかし、その数日後に分かったことだが、誰もそのようには感じていなかった。「会場を見た時、怒りを爆発させないように我慢していなければならなかった」とBerkhahnはメール上で語ってくれた。Ahlersは、もしBerkhahnがイベントの件で彼女をクビにしなければ、彼女自ら辞職する、と冗談交じりに言っていたそうだ。

それから数か月後、ベルリンにあるInnervisionsのオフィスで再びこの件に関してBerkhahnとBeyerに話を聞いた。それまでにも、Lost In A Momentは困難な状況に立ち合ってきた。バルセロナのギグはキャンセルになった他、事務所を訪れたその日の朝には、アムステルダムの会場が使えなくなり、彼らは楽しさとはかけ離れた感情を抱きながらその件について協議していた。最終的に会話の話題はナポリのパーティに移った。

Berkhahnは次のように語った。「パーティが終わってから、色んなことがダメだったことや、もっと良くできた点をプロモーターと話し合ったんだ。彼は『確かにその通りだ。しくじったよ。でも言いたいことがふたつあるんだ・・・』って言うんだ」

「『まず、俺は君たちのことが大好きだってこと』ってね」とBeyerが割り込んできた。

するとBerkhahnが笑いながら次のように語った。「そうなんだよ。『俺は君たちのことが本当に好きなんだ。もうひとつは、会場の許可を失わないために俺がどれだけ頑張ってきたのかを君たちは知らないことだ。多くのマフィアが金を要求してきて、パーティを止めるように脅していたんだ。パーティを止めないために相当の金を払わなければならなかったんだ！』と彼は言ったよ。それが、パーティを上手くプロデュースできなかったことに対する彼の回答だった。それで俺はこう返したんだ。『そうか。ありがとう。でも約束と違うことがふたつある。サウンドシステムを用意すると約束したら、ちゃんと用意しないとダメだ。ステージを用意すると約束したら、ステージを用意する。分かるだろ？』ってね。でもバルセロナとアムステルダムがキャンセルになった今、ここに座って考えると、『ああ、実は彼ってすごくいい仕事をしてくれていたんだ！』と思うよ」

この一件は、Innervisionsがチームとして非常に成功している理由を示している。彼らは自分たちが行うことに対してとても真剣に取り組んでおり、不満に思うことを正直に話し合っているのだ。しかし、それと同時に、彼らは悲劇的な場面に出くわしても平常心を保ち、陽気にやり過ごす一面も持ち合わせている。

米国でInnervisionsのアーティストをブッキングしているLiaison AgencyのAndrew Kelseyは次のように語る。「彼らは自分たちが望むものが何かをはっきりと理解しているし、その基準はとても高い。でも、僕にとってはとても面白いよ。プロモーターにとってもそれは同じだ。多くのアーティストが望むものは多額の出演料と大勢のオーディエンスだ。それもいいけど、Innervisionsの人たちが求めているのはクオリティなんだ。彼らは自分たちの音楽を好んでくれている人たち　－　不特定多数の10,000人ではなく、例えば、彼らのことを本当に気にかけている2,000人の心を動かして、そうした人に対して可能な限り最高の体験を届けたいと思っている。出演料は二の次なんだ。実際、多くの場面で彼らは自分たちの出演料の一部を制作費に回している。例えば、BerghainのRobert Grunwaldに照明をやってもらうためには、渡航費や宿泊費など、どこからか金を工面しなければならない。だから、僕にとっても、彼らにとっても、そして、プロモーターにとっても、彼らのパーティはカレンダー上の単なる予定ではなく、むしろ楽しいプロジェクトなのであって、みんなが最大限の配慮を施すものなんだ」

このエネルギーは、BerkhahnやBeyer、そして、Frank WiedemannといったInnervisionsの中心アーティストによる完ぺきにさえ見える化学反応から生じているように思う。Beyerは次のように語る。「俺たちは互いを信頼している。各自が自分のポジションを見つけて、自分の仕事を全うすることができる」。ここで言うポジションとは大まかに言えば次の通りだ。BerkhahnとBeyerは管理者として様々な決断を下し、Wiedemannはクリエイティブ面における原動力になっている。レーベルとしてのInnervisionsには、完全にBerkhahnとBeyerのテイストが表れている。その判断基準はシンプルに「俺たちがこのトラックをプレイするかどうか」だ。しかし、実際のコンテンツはWiedemannによるもの、とりわけ、 me名義での音楽であることが多い。

Berkhahnは次のように語る。「素晴らしい音楽がある時もあれば、そうでもない時もある。そして、俺たちには meがいる。 meがいなければ、Innervisionsは無に等しい。正直に言えば、初期の頃に発表したChâteau Flightのレコードや meの全リリースは、Innervisionsにとって極めて重要だと思う。 meのリリースでキーとなっているのは主にFrankだ。でも、Kristianがいなければ、Frankは完全に行き先を見失ってしまうだろうね。なぜなら、彼は決断を下すことが全くできないからだ」

Beyerはエンジニアとしての役割を担うことが多く、Berkhahn曰く、「エグゼクテイィブ・プロデューサー」の仕事も担当している。 me無しではInnervisionsが存在できないように、BeyerかWiedemannのどちらかひとりだけでは meも存在できない。Wiedemannは次のように語る。「俺たちはとても異なる個性を持ち合わせているんだけど、だからこそお互いを必要としているんだ。俺たちは一緒に歳を重ねてきて、今では恋人同士みたいなものさ。俺はKristianをとても信頼しているし、だからこそ meは上手くいくんだと思う。俺にとって彼はQuincy Jonesみたいな存在だよ」

レーベルのアイコン的トラックであり続けている2005年のシングル”Rej”を例に挙げてみよう。このトラックはInnervisionsの神髄であり、広々としていてメロディアス、そして、非常に雄大だ。Wiedemannは次のように語る。「異なるバージョンを少なくとも20個は作ったよ。それからトラックの素材を80%削ったんだ」

Berkhahnは次のように語る。「Kristianがやってきて、あっという間にトラックを削ぎ落して骨組みだけにしちゃったんだ。Frankはトラックを8割まで完成させるんだ。それからの過程は魔法みたいだよ。不可欠な要素なんだ。 meのトラックは大抵、Kristianが手をつけるまでほぼすべての要素が残っているんだけど、Kristianは『さっきのやつをもう1回やってみて。あれがもっと必要だ。いや、それは違う。それだとInnervisions過ぎる。去年の me過ぎる。もう一歩先に行こうよ』って言いながらFrankを追い込むんだ。この過程は彼らにとって絶対に欠かせないんだ」

Rej

Innervisionsの看板DJであるBerkhahnとBeyerの間にも同様の化学反応が生じている。Beyerはレコードを掘り、見つけたものはすべてBerkhahnと共有し、Berkhahnはそのほとんどをエディットし、Beyerと共有している。奇妙に聞こえるかもしれないが、この行為は彼らの友情が自然に拡張していった結果だ。長きに渡りBeyerはMarcus WorgullやGerd Jansonと共に、Berkhahnが新たな音楽を探す際の主要な情報源であり続けている。ふたりが初めて出会った時、彼はレコード店を運営しており、何年もBerkhahnにトラックを提供してきた。

Beyerは次のように語る。「近頃はファイルディガーって言った方が近いかな。ディギングに関して言えば、俺は今でもかなりオールドスクールだよ。本当に何でもチェックするようにしている。トランスやハードテクノなんかの音源ですらね。だって、どこかで何かしら発見できることは分かっているし、そうすることで単に普通の店やプロモのプラットフォーム、Beatportなんかをチェックしているだけの人とは違いを付けられるでしょ。だから日中は常に、もしくは、夜はホテルでヘッドフォンを着けてディグっているよ。それが俺のやっていることさ」

Beyerが天性のディガーであるように、Berkhahnは生まれながらにして物事を最適化するのが得意だ。彼は常に微調整によって物事を発展させる。エディットする彼の習慣はその好例と言えるだろう。Berkhahnは次のように語る。「DJの最中、俺は自由に泳ぎ回っているけど、その一方で、時間と労力を費やしてトラックひとつひとつを事前に準備するようにしている。その作業の半分は技術的につまらないことだよ。長めのイントロとかに手を加えて俺が望むような形にトラックをフィットさせるんだ。例えば、思いっきりテクノのトラックをエディットする時は、AbletonでBPMを132から124に変えて、ハイハットをエディットしたりするんだ。ちょっとしたことだよ。俺のエディットの半分以上は、何が変わったのか誰も気付かないと思う。でもそうすることでものすごい効果が生まれるんだ」

さらに彼は続ける。「Levon Vincentの”Anti-Corporate Music”は12分のトラックだったかな。ともかく、壮大な旅だよね。俺はそれを9分にして、あちこちのパーツを切り刻んでイコライジングしたんだ。劇的にトラックを変えなかったから、誰も気付かないだろうね。でも、エディットすることで俺のセットに完ぺきにフィットするようになるんだ。俺のセットの中では本当にビッグチューンになるんだよ」。その衝撃力をさらに増すため、同エディットが流れている間、Berkhahnは照明スタッフにクラブを完全に暗くするように頼むことが多いそうだ。もちろん、Grunwaldはその決まり事を心得ている。

素直に感想を伝えることもInnervisionsの重要な強みだ。Beyerは次のように語る。「俺たちはこれまで別の集団と一緒になることがあったけど、友人と一緒に働くと物事が難しくなるってことを目にしてきた。なぜなら、友達同士だと素直に話し合わないからだ。否定的なことを言わないでおこうとするから、ますます状況が悪くなっていく」。一方、Innervisionsには残酷なまでに正直な空気が流れている。「特にSteffenはベルリン育ちで典型的なプロイセン人だよ。プロイセンの人たちは本当にストレートな物言いをするんだ」と語るBeyerはWiedemannと同様、南ドイツの町、カールスルーエ出身だ。

Berkhahnが前述のイタリア人プロモーターに対して不満を個別に挙げていったように、彼とレーベルメイトは互いを信頼し、至らない点を伝え合っている。彼らは自分たちに対する批判を歓迎している。2013年、ある批評家がDixonのリミックスを収録したレコードを酷評した時、Facebookなど様々なところでちょっとした炎上騒ぎになった。しかし、Berkhahn曰く「その記事を笑顔でシェアして、自分の仕事をディスられるのは面白くて新鮮だ」というコメントを加えたそうだ（彼は私に対して本特集記事にInnervisionsの批評を含めるように促しさえした）。

Wiedemannは次のように語る。「KristianとDixie（Dixonのこと）からは常に正直な意見を聞くことができる。正直な意見は・・・確かに傷つくこともあるけど、手助けにもなる。『ねぇ、この前のトラック最高だったよ！』って言われても何の助けにもならない。でも、友達同士だとそういう感じが普通でしょ」

Beyerは次のように語る。「俺たちはしょっちゅうケンカになるよ。でも仲がいい意味でのケンカだよ。その後には何かを手に入れているんだ。俺たちはそうやって仕事している」

Wiedemannは次のように語る。「俺がKristianと一緒に音楽制作を始めた時は、まだ友達とは言えない関係だった。Dix（Dixonのこと）と一緒に仕事を始めた時も、まだ友達とは言えない関係だった。もちろん、互いのことは知っていたけど、当時は友達だとは言っていなかった。だから俺たちにはこうした正直さがあるのかもしれない。プロフェッショナルな正直さがね」

その背景は次の通りだ。90年代後半になるまで、Dixonは既にベルリンで高い評価を集めるDJで、TresorのハウスフロアであるGlobusでのレジデントの他、ドイツ中で定期的にギグを重ねていた。Beyerは次のように語る。「90年代でベルリンのハウスと言えば彼だった。ディープハウスで中心的なDJだったよ」

Berkhahnは次のように語る。「16、17歳の時からRobert Johnsonではしょっちゅうプレイしていた。そしてある時、あることに気づいたんだ。俺がプレイしている音楽をブースまで見に来ているやつがいる。さらにそいつに近づいて話をしている別のやつもいる、ってね。常に同じやつだったから、最終的に『何をやっているの？』って聞いたんだ。そうしたら『俺はカールスルーエでレコード店をやっているんだ。君がプレイしているレコードはほとんど俺の車の中にあるよ。かかっているレコードが何かを君に聞いてくる人がいれば、その人にそのレコードを売るんだ』って彼は答えていた。もちろん、その正体はKristianだよ」

Baby Dixon

それからしばらくして、Berkhahnはカールスルーエでプレイした時、Beyerは車で空港まで彼を迎えに行った。Berkhahnは次のように語る。「その時は真夜中で1時間くらいドライブすることになったんだ。会話がすごく盛り上がって『なんて面白いやつなんだろう！』って思ったよ。ドライブ中ずっとクレイジーな音楽が流れていて、30分くらい経った時、『ねぇ、この曲何？』って聞いたんだ」。そのトラックの正体は”Tonite”だった。BeyerとWiedemannが一緒に制作し始めた頃に作ったトラックのひとつだ。当時、Sonar KollektivでA&Rの仕事をしていたBerkhahnはその場で meとサインを交わしたのだった。

Beyerが次のように語る。「Sonar Kollektivはフリースタイルだった。ブロークンビーツやジャズの時もあれば、ヒップホップ、ソウル、ハウスの時もあった。Innervisionsの初リリースはTokyo Black Starの「Psyche Dance」だった。JazzanovaのAlex（Sonar Kollektivの設立者）に聞かせて『俺には分からないな』って言われたことを覚えているよ。それで俺たちは『うーん。でも俺たちは好きなんだよ！　どうすればいい？』って感じになって、Innervisionsって名前でサブレーベルを始めることを提案したんだ。そうすれば完全に俺たちがコントロールできるようになるからね。2枚目のリリースは”Rej”だったけど、またしても彼らは全く理解してくれなくて『何だよこれ？　トランスみたいな音楽だな』って感じだった」。以降、BerkhahnとBeyer、そして、WiedemannはSonar Kollektivから分裂し、Innervisionsとして全速力で駆け抜けていくことになる。

次の5年間の内に、Innervisionsのサウンドはさらに大胆になっていった。Wiedemannは次のように語る。「俺たちは常に負け犬のようだった。クラブで機能するハーモニーとメロディーを生み出そうと戦っていたんだ」。この戦いにおけるもうひとりのキーパーソンはHenrik Schwarzだった。彼が2008年に発表したトラック”I Exist Because Of You”は、ヨーロッパのディープハウスと南アフリカの雄叫びを鮮烈にブレンドし、レーベルにとって最も成功を収めたタイトルになった。こうした異種交配はInnervisionsでよく目にするようになっていた。南アフリカのプロデューサー、Culoe De Songは同レーベルから発表した2枚のEP、とりわけ「The Bright Forest」（英語版）を通じて国際的な評価を獲得した。2010年にはスーダンの子供兵から転身してラッパーになったEmmanuel Jalによるシングル「Kuar」がリリースされ、The KnifeのOlof Dreijerによるアヴァンギャルドなクラブチューンに加え、Schwarzによるリミックスが収録された。

もっと単刀直入なInnervisionsのレコードですら、幾分、派手なものが多い。Laurent Garnierの”Back To My Roots”にはドラマの追跡シーンのような空気が漂い、Osunladeの”Envision”には劇的なボーカルが用いられ、RyとWiedemannの”Howling”にはポップバラード的な感情があり、Lee BurridgeとMatthew Deekayの”Lost In A Moment”からはコズミックな憂鬱が感じられる。そうしたトラックでは色彩が散りばめられ、過度に壮大にならないように抑制がなされている。

誰と話しているかによってこうした印象は変わってくるだろう。多くの人々はInnervisionsのスタイルを明らかに好ましくないと判断している。私はそうした人たちとは違うが、かといって無条件に彼らのファンである訳ではない。長年、私は彼らがプレイしているのを目にしながら素晴らしい時間を過ごしてきた。2010年のイースター（4月4日）の朝にPanorama Barで繰り広げられたDixonのセットは、おそらく私がクラブで体験した中でベストの瞬間だった。しかし、彼らがプレイしたり、リリースしたりするレコードの中には、私にとってあまりにも強引に感情が注がれていると感じるものがある（過去に私はそうしたトラックを「テックハウス・バラード」と表現したこともあった（英語版））。しかし、最終的に彼らの音楽テイストはカバーデザインのテイストのようになっていった。Berkhahnで言えば彼のシャツにあたる。つまり、少し度が過ぎていても、彼らの精神を称賛したくなるほど完ぺきに具現化された豪華さがそこには感じられるのである。

レーベルとしてのInnervisionsはエレガントなまでにシンプルな運営方針を取っている。それは年に6枚のレコードを発表すること。そして、Dixonと meが大好きなだけでなく頻繁にプレイする音楽のみを扱うことだ。前進を続けようとする強い気持ちもレーベルの原動力となっている。Wiedemannは次のように語る。「どうやって他の人たちと違っていられるかってことかな。その場でじっとしていないように常に次の道を探さなければならない」

その想いは音楽そのものを超えた領域にも及んでいる。00年代末、Innervisionsはブランド兼オンラインレコード店、Muting The Noiseを立ち上げた。Muting The Noiseでは、レコードに加えてTシャツやポスターといった標準的な商品から、Tobias Rappがベルリンのクラブライフについて綴った本『Lost In Sound: Berlin Techno And The EasyJet-Set』など、レコードレーベルではそれほど一般的ではないものまで、多岐に渡るアイデムが制作販売されている。

Wiedemannは次のように語る。「『俺たちが欲しいのは本当によくできたラップトップ用バッグなんだけどなぁ。俺たちはこういうTシャツが欲しいんだけどなぁ』って感じでやっている。その中には素晴らしいアイデアに発展したものもあったし、金銭面で悲惨な目に遭ったものもあった。初期の頃のInnervisionsを見れば、俺たちがおかしな失敗をたくさん犯していることが分かるよ。例えば、出版や販売のことについて何も知らないのに本を制作したことがあった。『Lost In Sound: Berlin Techno And The EasyJet-Set』は大成功すると思っていた。書籍版の”Rej”が色んな店や駅、そして空港に並ぶんだから！」。彼は笑いながら続ける。「でも、蓋を開けてみると、例えば、Amazonでは、別途4冊の本を出版することになっていなければ、書籍の仕入れすら行わないことが分かった。俺たちはあまりにも多くのことを知らな過ぎた。でも、大失敗になることは一度もなかったし、俺たちがやったことすべてを今でも誇りに思っているよ」

Innervisionsが下した最も大胆な決断はおそらく当時のディストリビューター、Word And Soundに流通を頼むのを止め、自分たちのレコードをMuting The Noiseを通じて直接販売するようにしたことだろう。彼らのイベントと同様、Innervisionsのレコードの制作費は常に高い。2010年頃、レコード販売数の減少により、彼らの12インチは金銭的に現実的ではなくなってしまった。その頃のインタビュー（英語版）でBerkhahnはRAに対し次のように語っている。「俺たちは常にハイクオリティのマスタリングを行おうとしているし、独自のパッケージングで入念にカバーデザインを制作している。それは今後も続けていきたいと思っている。販売数が減ったからクオリティを下げるか？　もしくは、クオリティを保ったまま別の流通方法を探すか？　他の人たちと同様、俺たちも決断を迫られていた」

自主流通は簡単な業務ではない。単純に考えても、何千というレコードを保管し、レコード店に加えてファンの人たちから直接注文を取り、個別に包装して発送しなければならない。しかし、第三者のディストリビューターに払う経費を削れば、Innervisionsは自分たちの基準に合ったレコードを販売し続けることが可能になる。どちらを選ぶべきかは明らかだった。

ある意味、Lost In A MomentはMuting The Noiseにとても似ている。どちらにおいても、仲介役を取り払うことでオーディエンスと直接的な繋がりを構築するという強い想いが原動力になっている（前者の場合で言えばクラブやプロモーターがそれにあたる）。Berkhahn曰く、こうした行為は「Innervisionsという母艦」にしっかりと結びついてはいるものの、厳密に言えば、独立した試みである。現在、3人は5人のスタッフと共にクロイツベルクにある古い建物の最上階で互いに並び合って運営を行っている。明るく照らされ、間隔を十分に取ったその部屋の中には、スタジオやキッチン、作業場、そして、Muting The Noiseの店舗が入っている。同レコード店がオープンするのは毎週木曜日だ。

しかし、こうしたプロジェクトにどれだけ愛情を注ぎこもうと、当然ながらそこにはアーティストから時間とエネルギーを多く吸い取ってしまうことがある。ギグだ。数年前にDJ活動を停止し、 meのライブセットに専念するようになったWiedemannはギグを楽しんでいるが、移動は好きではないことを認めている。Worgullは定期的にプレイしてはいるものの、ギグ以外で生活費を稼ぐ手段を常に確保している。一方、BeyerとBerkhahnは嬉しそうにギグに出演しており、週に4回プレイすることもしばしばだ。

Beyerは次のように語る。「今ではそのペースに体が馴染んでいるんだ。2、3時間しか睡眠が取れない。自分がどこでも眠れる人間で本当によかったよ。時にはクラブで眠ることすらある。俺はそうやって生き延びているんだ」

さらに彼は次のように加える。「Steffenに関してはちょっとヤバい時があるかも。昔、彼はアスリートだったんだ。だから本当に限界まで自分を追い込んでしまうことがある。Frankや俺はそんなことしないけどね」

ナポリでLost In A Momentが行われた週末、Berkhahnは4つのギグでプレイすることになっていたかもしれなかった。日曜日に行われたLost In A Momentに加え、彼はベニスとロッテルダムのクラブ、さらに、マンハイムの野外イベントでプレイすることになっていたが、同野外イベントは悪天候のため中止になった。ロッテルダムでのギグの前、Berkhahnは次のように語ってくれた。「もしマンハイムに行くことになっていたら、ベニスのクラブから直接向かわなければならなかっただろうね。もしかしたら1時間くらいは寝ることができるかな。それで空港に向かって、マンハイムには午後2時に到着して、3時半から8時までプレイするって感じかな。その後、マンハイムからアムステルダムに向かう最終便に乗ることになるね。ロッテルダムには夜0時くらいに到着して、2時にプレイを初めて6時か7時に終了するでしょ。それで少しだけ休憩して、Lost In A Momentのために飛行機に乗ってナポリに向かうんだ」

Reconditeはナポリで次のように語っている。「Dixonは戦士だ。俺にとってギグでプレイすることは二の次で制作の方が大事だけど、彼にとってはギグでプレイすることが主な活動だから、本当にとことんプレイしている」。元パーソナルトレーナーであるReconditeは、そうした活動による健康への影響を考えてゾッとしていた。「一晩に6時間より少ない時間しか寝られないなんて我慢できない。健康にかなり悪いよ。どうやったらDixonみたいに活動できるのか分からないよ」

この問いに対するBerkhahnの回答は非常にシンプルだった。「うーん。好きだからだよ。それが一番の理由だね」。さらに彼は無茶苦茶なスケジュールのおかげで自分の活動を続けていられると考えている。「例えば、Sub Clubで午前3時までプレイして、6時の始発便でベルリンに向かってPanorama Barでプレイするとしようよ。そうすると完全に自分は限界を超えていると感じるようになるんだけど、その状態はフロアにいる人たちと同じなんだ」と言うと、彼は少し考え込み次のように語った。「もしマンハイムのギグが行われていれば、ロッテルダムでは確実にもっといいプレイができただろうね」

8月の第2日曜日、私は友人と一緒にLost In A Moment: Berlinに向かった。その日の午後はとても暑く、貸切バスの群れが会場に人々を運んでいた。1時間だと予想されていた移動時間は高速道路の渋滞により3時間以上かかってしまった。その時のLost In A Momentで思わぬハプニングとなったのはそれくらいで、ほぼすべての物事がスムーズに進行していった。そんなことはおそらく初めてだったのではないだろうか。

会場になったのはブルク・ラーベンシュタインだった。一般には鷹狩りと中世の市場が名物として知られる中世の城だ。その日、傾斜した中庭がダンスフロアになり、木製の小屋がDJブースとして使用された。数百人というオーディエンスはパーティ開始から思い思いに行動していたが、常に節度を持って過ごしていた。ビールやクロイタハークス（イェーガーマイスターとは異なるシュナップス）を提供するバーテンダーから、冷たい水を嬉しそうに浴びせてくる消防士まで、オーディエンスは同会場で働いている地元の人たちさえも魅了しているようだった。水浴びは極度の高温からオーディエンスを守るために行われていたのだろうが、いたずら好きな消防士も彼らと同じように楽しんでいた。放水ノズルをプロ用のスーパーソーカー（強力な水鉄砲）のごとくクルクルと回したり、発生してもいない火災を消そうとしたりしている彼の姿を目にすることもあった。

その日は時間がすぐに過ぎていった。Running Backのボスであり、Innervisionsファミリーと長きに渡る友人であるGerd Jansonが最初にプレイし、色彩豊かな落ち着いたハウスでオーディエンスを徐々に温めていた。Beyerがプレイしたレコードはさらにドラマチックだったが、DJブースでの彼の様子はいつもと違いリラックスしていた。圧倒的な長さのジョイント（45cmくらいはあったと思う）が渡される場面があり、彼は普段ステージで見せることのない目を細める満面の笑顔になっていた。Marcus Worgullはどことなくバレアリックでヘビーな方向に進み、KiNKの”Fantasia”をプレイして会場を熱狂へと導いた。Wiedemannはライブを行ったのだが、私はそれを見逃してしまった。会場内の木の梁が張られた酒場で酒を飲んでいたからだ。そこではInnervisionsお気に入りの酒場から連れてきたスタッフがLost In A Momentのロゴがべったりと描かれた缶を使ってセクトというカクテルを作っていた（同会場で目に付いたブランディングはそのロゴと無料で配られた扇子くらいだった）。

ダンスフロアに戻る頃には、夕闇が訪れており、BerkhahnがDJ小屋の中にいた。ポーカーフェイスながら自由自在にグルーヴする彼は、Red Axesの”Pil Sagol” （彼は最前列にいた人にこのトラックの名前を叫んで教えていた）といった奇妙なトラックを数多くプレイしながら、今年の夏に聞いてきた彼のどのセットよりもさらに瑞々しく絶妙に展開していた。長時間太陽の下で汗を滲ませ、前方ではこぶしを突き上げたり、後方では目を閉じて踊ったりと、オーディエンスはいい具合に弾けていた。太陽が沈むと、Grunwaldによる照明が周囲の城壁を照らしていた。

午後11時ちょうどに音楽が止まったが、午前4時くらいまで数十人の人々が酒場でたむろしていた。音楽は流れていなかったため、後でBerkhahnはこのアフターパーティについて「ダメだ」と評したが、酒場にいる時の彼はご満悦のようだった。みんなは褐色に照らされた冷ややかな部屋のあちこちに散らばって会話をしたりバーに残ったものを注いだりしていた。私は満足感を得ていた。そして、今回の感覚は正しかった。Innervisionsの人たちによれば完ぺきに成功したLost In A Momentはそれまで無かったようたが、その日のパーティはかなりいい線を行っていたように思う。

その週、オンライン上に現れたコメントによれば、オーディエンスも彼らと同じように感じていたようだ（Innervisionsはそうした感想に対して細心の注意を払っている）。ある人はRAで次のような書き込みをしている。「ありがとう、Innervisions！　今までで一番のパーティだった。とても温もりのある会場で、数百人の熱心なファンと一緒に体験を分かち合えたし、すべてが本当に完ぺきに運営されていた。何年か前にTrouwで体験した時間よりも素晴らしかった。今も当日の雰囲気から抜け出せないでいる」

同スレッドには後にInnervisionsのRAアカウントからコメントが加えられていた。「悪天候や会場許可の問題も無く、ようやくLost In A Momentを楽しむことができて本当に嬉しい。今後も再び特別な瞬間をたくさん生み出したいと思っている。今回のパーティは絶対に忘れないよ」