私がLA Club Resourceのことを知ったのは、以前に働いていたハリウッドのレコード店Amoeba RecordsでDelroy EdwardsことBrandon Perlmanが黒色のステッカーを渡してくれたときだった。ステッカーにはカリフォルニアのエリア局番である213の電話番号がサンセリフ体のフォントで掲載されていた。あれは確か2013年、Perlmanのファースト12インチ「4 Club Use Only」がL.I.E.S.から発表されて間もない頃だ。このレコードはちょっとした話題となり、Perlmanはゲットーハウス界の新星としてPaul JohnsonやJeff Millsのレコードを携えてヨーロッパをツアーするようになった。その展開の早さと同じように、彼は音楽スタイルを頻繁に変えてきた。現在に至るまでの間、その短くも華々しいキャリアにおいて一貫しているものが唯一あるとするならば、それは予測不可能性だろう。

さらに数枚のリリースをL.I.E.S.から発表した後、PerlmanはLA Club Resourceをスタートし、黒人が逮捕されている場面を捉えた不鮮明な写真をスリーブに使用した「Untitled」を発表した。2014年3月、彼は特設プレイベートクラブTop40のイベントDuck Slick（DJ Screwによる1995年のミックステープ『Duck Sick』に由来している）に出演し、90年代のGファンクセットをプレイした。その後、彼は3つの”スクリュー”ミックス『Slowed Down Funk Volume I-III』をオンライン上で無料配信し、一方でRoland SH-101のプリミティブなノイズをミックスした『Teenage Tapes』をBoomkat（マンチェスターのレコード店）傘下のレーベルThe Death Of Raveより発表した。

3月にPerlmanの自宅でインタビューを行ったとき、彼は次のように語っていた。「あらゆる音楽を作れるようになりたいんだ。俺は少しADD（注意欠陥障害）の気があるから、飽きっぽいんだよ。だからDJすると大変だよ。1～3時間くらいDJしているうちに訳が分からなくなってくるからさ」

とは言うものの、PerlmanはDJ活動を続けている。ただし、そのスタイルは極めて独特だ。2015年10月のNTS Radio（ロンドンにあるオンラインラジオ局）で配信された彼のミックスがMixcloudのハードコアチャートで1位を獲得した。ビートチャートでは8位、テクノチャートでは14位だったが、自身の実験的なシンセトラックやThin LizzyのメンバーPhil Lynottの曲と並んでパンクのレアな7インチがプレイリストに含まれていることを考えれば、納得の結果だ。そして今年2月のNTS RadioでDJした際には、彼は『Fun In The Sun』と題してサイケデリックなアメリカン・ガレージロックを深く掘り下げている。一方、LA Club ResourceはGene Huntによる未発表ビートトラックや、90年代初期のオブスキュアなメンフィス／ニューオーリンズ・ラップの他、サンフランシスコのSkanderや、Perlmanと旧知の仲であるVereker、LAのアーティストDeliveryらを含む、アメリカ屈指の個性的なテクノプロデューサーの楽曲を世に送り出してきた。自身の作品、レーベル運営、DJセットからも分かるように、Perlmanの音楽の接し方は、ジャンルひとつひとつを徹底的に掘り下げるレコード店スタッフのそれに通ずるものがある。そして多様な側面を持つPerlmanはこうした特異な活動にも関わらず、それをフォローする熱心なファンを獲得してきた。

LA Club Resourceの運営にはPerlman Brandonの他にHenoch MooreとJimmy Flemingのふたりが携わっている。彼らは、マネジメント会社、広告代理店、そして、オンラインストアでもあるGene’s Liquorも手掛けており、Dance Maniaのデットストックからメキシカン・ハードコアやルイジアナ・ギャングスタラップまであらゆる音楽を販売している。Mooreは「Brandonは死ぬまで挑戦と前進を止めたりしないだろうね」と語る。それに対し、Perlmanは「ハウスってすごくかっこいいんだけど、自分が持っているハウスの曲は全部プレイしちゃったし、同じ曲を何度も使いたくないっていうだけの話さ」とシンプルな理由を明かした。

Perlmanのように我の強い人を私は知らない。彼が2014年にハリウッドの老舗AvalonのクロージングパーティーでDJをしたときの話を例に挙げよう。Dennis Ferrerの後を引き継いだ彼はおもむろにトラックのピッチを下げると、あっぱれなまでに自分勝手な珍妙プレイを始めてフロアからオーディエンスを一掃した。彼がバンクーバーでヒップホップセットをプレイしたときも、4つ打ちのかからないプレイにオーディエンスは戸惑いを隠せなかったようだ（現地のRAライターAndrew Ryceがその様子をツイートしている）。Perlmanの予測不可能なプレイは、純粋に楽しい時間を過ごそうとしているファンやプロモーターを苛立たせるものではあるが、その心は複雑なようだ。

Perlmanは次のように語る。「DJするのはそんなに好きじゃないんだ。クラブカルチャーで気になっているのは、自分のやりたいようにプレイできないことだ。周囲の空気を読まなきゃいけないところがあるから、ありのままの自分をさらけ出せない。メロウなときもあれば、ノリノリのときや、おとなしいときもあっていいんじゃないかな」。最近のPerlmanはほとんどDJをしなくなった。途切れることなく出演依頼が届いているにもかかわらず、彼がツアーに出るのは稀だ。今はそれよりもレコードディギングや音楽制作、そして、MooreやFlemingとのレーベル運営に時間を費やしていたいのだそうだ。

Henoch Moore and Jimmy Fleming

LA Club Resourceは方向性や文脈に捕らわれず、自由に音楽とデザインを提示してきた。テクノの12インチが連発されたかと思いきや、Shawty PimpとReddogによる『Comin’ Real Wit It』がヴァイナルで再発されることもあった（1995年にカセットで発表されていた同作には今やDiscogsで100ドルを超える値段が付いている）。他にも、Perlmanが以前から耳にしていたGene Huntの未発表ビートトラックを入手して12インチで発表したときには、そのカバーデザインにChicago Bullsのロゴが使われた。

「俺たちの好きなものが原動力になっているんだと思う」と語るのはMooreだ。「それに制限を設けない。何となく方向性を定めるようなことはしないし、文脈やスタイルにも決まりがない。こういうことは考えすぎない方がいいんだよ。直感を信じてやってみるだけさ。そうすれば余計な制限はなくなるし、作品そのものを楽しんでもらえると思う」。それはつまりLA Club Resourceからリリースされるアーバンなドラムマシン・ミュージックは時代と場所を問わないということだ。「カルチャーや文脈もすごく大切だし、俺たちもその重要性を理解しようと努力している。でもファンたちに向けて俺たちがすべきなのは今やっているようなことだとも思うんだ」

音楽さえ素晴らしければ、LA Club Resourceの作品が制作された時期は重要ではないのだとFlemingは加える。「Gene Huntは92年に作ったトラックをリリースしていなかった。冬の間、まだガキだったGene Huntが電車に乗っているときに自分のサウンドを見つけようとしながら作ったトラックだ。そういうトラックを俺たちはリリースしたいんだ。Shawty Pimpが95年に作ったテープを50人しか持っていないなら、もっと多くの人に聞いてもらえるようにしたい。いいトラックはいいトラックなんだし、92年に作られた曲が2015年にLAのレーベルから発表されても、曲が良ければそんなことは関係ないんだよ」

195cmという圧巻の身長とは裏腹に、Perlmanの微笑みは穏やかで、その所作はひときわ洗練されている。彼が一度だけDJ Punisher名義で作品を発表したとき、カバーデザインとプロモーションビデオにピストルが使われていたが、それとは全く異なる雰囲気が彼には漂っていた。DJ Punisherの他にも、SkanderやVereker、そして、新しくレーベルに加わったブラジル人アーティストInnysterは、灼け尽くすようなざらついたテクノサウンドを展開している。「クラブミュージックに限って言えば、俺たちはみんな、”音量が大きい = 良い”っていうウェアハウス的な考え方をしている」とPerlmanは語る。「デザインに関しては、単に当時の俺が考えていたものだ。1枚目（Delroy Edwardsの「Untitled」）のデザインは、ニュースになっていた映像を使ったんだ。違う形であの映像を使ったら面白いんじゃないかなって思った。クラブの雰囲気を混沌とさせたいんだ。良いも悪いもあらゆるものがぐちゃぐちゃになっていて狂っている混沌だ。荒々しい混沌をコントロールしている感じさ。抑圧された人たちに不当な暴力を振るうんじゃなくて、街で見かけるそういうメンタリティを大騒ぎできる環境に持ち込むんだ」。警察が人種問題の火種となってきたLAで育った彼にとってそうした世界観は身近なものだった。

現在、シルバーレイクとイースト・ハリウッドの間に居を構えるPerlmanだが、以前はマウントワシントンや、インターステート10（高速道路のインターチェンジ）から南へ向かったウェストアダムズに住んでいた。FlemingとMooreは現在このエリアでアパートをシェアしている。「あそこはひどいよ」とPerlmanは語る。「黒人が団体でドライブしていると警察に止められるんだ。そんな光景を見ながら育つと、それに慣れてしまう。LAにはそういう一面もあるんだ。LA Club Resourceは良い部分も悪い部分も含めてLAがどんな街なのかを映し出している。例えばアートワークがそうだ。アートワークはそんな大げさなものじゃなくて、単なる絵に過ぎないんだから、自分の好きなようにデザインすればいい。でも、周囲で起こっていることをテーマにすることで、意味のあるものにしようと思っているんだ」

彼が、『Hellboy』、『Drive』、『Sons Of Anarchy』などに出演する俳優Ron Perlmanの息子であることは既に周知の事実だ。そのためネット上では、彼の真価や、Delroy Edwardsが持つストリートのイメージ、生い立ちに関する憶測など、様々な話題が飛び交っている。「みんなはどんなことにも小言を挟んでくるのさ」とPerlmanは語る。「いつも言っていることなんだけど、そんなことは音楽に関係ない。俺の生い立ちがどうかなんてどうでもよくて、大事なのは音楽のはずだ」

インタビューで家族のことを話すのは初めてだというPerlmanは、幼少期の音楽体験に影響を与えたのは音楽一家に生まれた父親だったと語る。他にも彼は、自宅の地下室をドラムセットで占拠したという逸話から、両親や姉が好んで聞いていた音楽まで、とてもフランクに語ってくれた。「俺は家族のみんなを誇りに思っている。親父の経歴は本当にすごいと思う。そのおかげで俺も頑張って活動を続けたいって思えるんだ。姉貴やおふくろからもエネルギーをもらっている。我が家のみんなはお互いに愛し合っているよ」。

Perlmanによるトラック30曲を収録したファーストアルバム『Hangin’ At The Beach』のカバーデザインにピストルは使われていない。それに代わり、自分の変顔をクローズアップした写真が使われている。収録曲には遊び心があり、ロマンティックで繊細な雰囲気が漂っている。そして曲長はこれまでより短く、そのサウンドはローファイでメロディアスに仕上がっている。交際相手の名前をタイトルに使った”I Love Sloane”は、たった1分という短い時間で暖かくセンチメンタルな感覚が見事に捉えられている。LAの荒れたエリアにインスピレーションを求めなくなったというPerlmanは次のように語る。「アルバムの大部分は北カリフォルニアやモントレー、それに、ビッグサーの雰囲気に影響を受けている。『Hangin’ At The Beach』ってタイトルがどんなサウンドなのかを物語っていると思う。ハウスではないけどね」。

Perlmanが早いペースで制作を続ける一方で、MooreとFlemingは外部とのやり取りやミーティングの対応、そして、発送業務を担当している。ふたりは、サンパウロのInnsysterによるアルバムと並んで『Hangin’ At The Beach』を重要作品として位置づけている。「1枚目を出してから約2年半が経つ」とFlemingが語る。「Innsyterに続いてDelroyのアルバムを出せて、すごく興奮しているよ。今回のアルバムはレーベルにとって挑戦なんだ。ファンの人たちがどう反応するのか分からなかったから」。Perlmanらしく、このアルバムはこれまでと全く異なるサウンドだ。これまでに探求してきたジャンルをミニマルにアレンジして提示した同作からは、同じくLAの奇才であるAriel Pinkの初期傑作に通ずる雑然とした雰囲気が感じられる。

Gene Huntによる荒唐無稽なトラック”Ow (Drum Beat)”から、Innsysterによるメタルスタイルの威嚇的な”Coffin Time”、そしてラストを飾るLil’ Noidの狂乱ゴシック”Binghampton Niggas”まで、Perlmanを含むレーベルアーティストたちのリリースには無秩序な不完全性がある。レーベルの音楽に共通しているのは勢いを活かした制作プロセスであり、そこで大事なのは音楽性の忠実度よりもアイデアだ。『Hangin’ At The Beach』のローファイな収録曲の多くは1～2分程度のトラックばかりで、Perlmanが忙しなく一気にレコーディングしたものだ。「俺たちはベッドルームで制作される音楽が好きなんだと思う。エクスペリメンタルでクリエイティブなアプローチが取られている音楽がね。ベッドルームは音楽を制作するうえで本当に独自の作家性が表れる場所だと思う」とMooreは語る。「1992年のメンフィスにも同じことが言える。同じベッドルーム的な世界観と豊かなアイデアがLAの街やストリートを通じて鼓動しているのが感じられた。それは今でも多くのアーティストから感じられるよ。ブラジルのサンパウロにあるInnsysterのベッドルームにも同じスピリットが漂っている。どこか少し違うもの、どこか少し挑戦的なものを作る欲求がそこにはあるんだ」

ハリウッドからさほど離れていない、街路樹が並ぶ通りからひとつ外れたところに建つPerlman宅を訪問したとき、彼はDASの作品に合わせてドラムを演奏していた（DASは80年代に活動したミシガンのワンマン・ガレージプロジェクト。インターネット上で彼の情報を探すのは不可能に近い）。Moore曰く、3人には共通してレアな音楽を見つけ出す能力が備わっており、摩訶不思議な音楽の最深部にまで迫ろうとする活動の一翼を担っているそうだ。Perlmanの場合、電話がその主な手段だ。ニューオーリンズのギャングスターラップ・プロデューサーであり、Mobo Records（同レーベルのバックストックはGene’s Liquorで販売されている）を仕切るDeathに電話をすることもあれば、90年代のラップのカセットテープに載っている電話番号に電話して、そのテープについて詳しい情報や音源を手に入れようとすることもある。インタビュー中、愛犬のピットブルを追い払ってばかりだったPerlmanは次のように語る。「たまには変なことも起こるよ。ある人に電話したときは、その人はドッグファイトの真っ最中だった」。

Perlmanは何よりもまず、いち音楽ファンであり、多作なプロデューサーだ。そしてダンスフロアとは、良好だとは言い切れない関係を築いている。それではLA Club Resourceがクラブミュージックでやるべきことは何なのだろうか？「自分たちのクラブでプレイするための音楽だ」と彼は語る。「他の人たちにも彼らのクラブで使ってもらえたら嬉しいね。レーベルの作品を全部集めて、徹底的に聴き込んでもらえたら、俺たちのクラブで何がプレイされるのか分かるはずだ。これまでにリリースしてきたような音楽はすべてプレイされる。俺はそんな風にイメージしているんだ。クラブの見た目まではイメージしたことないけど、俺たちのクラブなんだからさ、想像つくでしょ？」

Label of the month mix
オブスキュアなロック、悲しげなメキシカン・ソング、ローファイなエクスペリメンタル・シンセミュージックなどあらゆる音楽をDelroy Edwardsがミックス！まるでLAに照りつける陽射しがミックステープを溶かしているかのようだ。

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