11月中旬の夕方。Nina Kravizはメルボルンのビーチパーティーで数千人を相手にDJをしていた。3時間のセットには複数の音楽スタイルが織り込まれ、彼女が後日フェイスブックに投稿したように「トリッピーで比較的ゆったりとした時間帯」があった。そこでプレイされたのは、Ricardo Villalobosによる"Blood On My Hands"のリミックス、ゲットーハウス、1993年に100% Acidiferousが発表した狂乱トラック"Tank"などだ。

しかし、パーティーの翌日、Kravizは同セットに寄せられた苦情に対して投稿をすることになった。テクノを目当てにしていたオーディエンスにとって、彼女がプレイした曲はテクノとみなされず、中には払い戻しを求める者がいたのだ。最もネガティブなコメントは太陽が地平線の向こうへ沈んでいった瞬間にプレイされたトラックへ寄せられていた。そのトラックは、ISHOME、そして、Shadowaxとして知られるロシア人プロデューサーによる"I Want To Be A Stewardess"だった（同曲はKravizのレーベルтрип（"トリップ"と読む）から発表を控えている）。「完全に私好みのトラック」と彼女はフェイスブックの投稿で説明している。

「とても低域の効いたテクノだけど、ロシア語のスピーチが繰り返される強力なビートレス・トラックね（中略）突然、狂ったみたいにBPM155まで早くなっていく展開が1分か1分半くらいあるの。雰囲気が変わって、アーメンブレイクを挟んでから大きな展開を経て、ドラム&ベースというかハードコアみたいになるんだけど（中略）最後にはBPM129まで遅くなって、普通の状態に戻るの」

はたしてこのように、どの部分がこのトラックの"普通の状態"なのか明言できるものなのだろうか？ 4000人を相手にした野外セットに組み入れられるからといって、トラック序盤と終盤のテクノパートが普通の状態なのか？それとも、そのトラックからは、ひいては、それをプレイするKravizからは思いもよらない1分半の混沌とした中盤の展開が普通の状態なのか？

それからさらに数日後、シドニーのホテルに滞在していたKravizは電話越しに次のように語ってくれた。「私は全然違う人になることを楽しんでいるの。DJでもそうよ。そのときどきで全く違った人に思えるかもしれないけど、それはおかしなことなんかじゃないわ」

もしかすると、Kravizのオーディエンスにとっては彼女が"普通の状態"でいてくれる方がいいのかもしれない。彼女がときおり見せる意外な行動は多くのトップクラス・アーティストよりも物議を巻き起こすことが多い（彼女が女性であるということも、その理由の一端だ）。しかし、そうだからといって彼女がひるむことはない。2014年に始動し、Bjarkiの特大テクノヒット"I Wanna Go Bang"で知られるтрипは、彼女がこれまでに行ってきた活動の中で最も予想外な音楽を発信しているかもしれないからだ。"I Wanna Go Bang"はтрипのリリースの中では例外的トラックだ。というのも、他のリリースはさらに奇抜な内容だからだ。リリースの多くが2枚組のコンピレーション形式で発表されており（Kraviz曰く、コンピレーションではなくアルバムだそうだ）、謎めいたタイトルとシュールでおぞましいイラストがスリーブを飾っている。そこへ収録される音楽は広義の意味でのテクノであり、速いテンポでワイルドに展開するAFXの"P-String"から、メランコリーなサウンドで洗い流すDeNiroの"Organezized"までと様々だ。

трипのトラックに共通しているのは、もちろんトリッピーな要素だが、それ以外にもリスナーにとって予想外のリリースをしようとしている点が挙げられる（Roma Ruzkermanの"I Have A Question"で使われていたジャズのコードや、Kravizによる"I Believe I Can Fly"のカバーを聞いてみてほしい）。新人プロデューサーと90年代から活動するベテランが入り混じるтрипのアーティスト陣の多くはロシアの他、アイスランドやアメリカを拠点にしている。そして、作品は相互に延々とミックスできるような並びで発表されているので、Kraviz曰く「自宅で友達とアフターパーティーをすれば果てしなく続く」そうだ。

трипが大きくなっていくに従い、Kravizは音楽活動の中心にレーベル運営を据えるようになった。彼女はтрипのアーティストと一緒にツアーを行い、彼らの進化に強い興味を示してきた。その中でもとりわけ注目しているのが、レーベルから短期間で3枚のアルバムをリリースしているBjarkiだ。昨年、Kravizは自分のDJセットでは少なくとも半分がтрипの既発／発表予定音源で構成されていると語っていた。発表を控えている『fabric 91』での迷宮のようなトラックリストにはレーベルの未発表音源が散りばめられ、奇妙で鮮烈なミックスはтрипという熱にかかってしまったかのように狂騒としている。

「実は以前と比べてすっごく変わったわ。ある意味もっとパーソナルになったんじゃないかしら」とは、レーベルがDJにどのような影響を与えているかをKravizに尋ねたときに帰ってきた回答だった。インタビュー時、オーストラリアはすでに遅い時間だったが（彼女はオーストラリアで6週間にわたる大陸横断ツアーを行っている最中だった）、彼女は熱心に話をしてくれた。「あるとき、трипの音源をプレイすることにハマり過ぎて、少し気まずい気持ちになったことがあって、一度頭を冷やさなきゃって思うようになったの。たぶん、現実を見なくなっていたんだと思う。私はまずDJなんだから、レーベルで扱っているものとは違う範囲の音楽を探し続けないといけないでしょ」

Vladimir Dubyshkin, Alina PTU, Nikita Zabelin, Nina Kraviz, Kamil PTU

трипの構想はKravizのDJ体験から、具体的に言えば、彼女が2015年に発表したミックス『DJ-Kicks』の制作時に生まれたそうだ。『DJ-Kicks』の制作準備として以前好きだった音源を聞き直したとき、彼女がレコードを買い始めた2000年代初頭に見つけた2枚のレコードに目が留まったという。そのうちの1枚はアイスランドのExosが1998年にリリースした「Grass Hunter」だ。当時のテクノと同じく、同作も「完全に違うものだったわ。速くて激しいのに、すごく柔らかくてきれいだし、穏やかで酩酊させられるの。サイケトランスみたいな感じ」だった。もう1枚はニューヨークのSteve StollによるCobalt名義の作品だ。Kravizはその作品の90年代らしさ溢れるデザインに心を打たれたのだそうだ。「レコードには銀色で"Cobalt"って書かれているだけなの。銀色っぽい字で少しかすんだように書かれた謎の言葉。どういうわけか、自分のレーベルを考えていたときにこの2枚のレコードでイメージが固まっていったの」

同時期、彼女は自分のキャリアを様々な面から振り返り、あることに気付いたのだという。「私がどんな時代のどんな音楽に興味を持ったとしても、音楽のテクスチャーはどれも同じだった。どんな音楽をプレイしても、いつも決まったタイプの感情というか感覚というか、何と呼べばいいのかは分からないけど、いつも同じテクスチャーになるの。こういう気持ちだったり、こういう音楽を表現している人はどこかにきっといるはずだわ、って思って、探してみたんだけど、誰も見つけられなかった」

『DJ-Kicks』で使用するエクスクルーシブトラックを集め始めた彼女はその過程で「まだサインされていない未発表の音楽がかなりあって、それがどれも私の好きなテクスチャーで、すごく確立されたサウンドだったから、『これを使って何かできないかな』って考えるようになった」そうだ。

決め手となったのは「半分楽しくて、半分恐ろしい」かったというタコの夢だそうだ。「晴れた日の設定で、世界はタコを中心に回っているの。そうしたら急にそのタコが怪物みたいな全く別のものに変身して、目につくものすべてを飲み込んでいって、その後、タコは普通の状態に戻るんだけど、何があったのか覚えてすらいないの」

この不可解な夢がまだ記憶に残っている間に、Kravizは、ポルトガルの若手イラストレーターが描いたKravizの奇妙なポートレートと出会うことになる。「すごくダークな絵で、かなり狂っていた。その絵を見ていたら、夢で感じた感情が少し蘇ってきたの。その絵はTomboっていうアーティストが制作したアートシリーズ『Mental Diarrhoea』の一部だった。「ちょっと、これ何なの？」ってすぐに彼にメッセージを送ったら、『Nina、本当にごめん。怖がらせる気は無かったんだ。僕はNinaの大ファンだったから』って言ってきたの。だから私は『いや、そうじゃなくて、これすごいわよ。すごくきれい。話は変わるんだけど、一瞬にしてすべてを飲み込むタコの物語の絵を描いてくれない？そのタコは何をしているのかさえ分かっていないの』って依頼したの」

それから3日間でTomboが仕上げた4枚の絵がтрипのビジュアルイメージとなり、Kravizは自身の奇妙なコンセプトを軸に選んだ8曲をリリースとしてまとめた。『The Deviant Octopus』には『DJ-Kicks』にも登場したSteve StollやExosによるトラックの他、デトロイトのイノベーターTerrence Dixon、Kraviz本人、若手プロデューサーのBjarkiやParrish Smithらの楽曲も収録された。ゼロックス・スタイルのアートワークは90年代のレコードに触発されたもので、収録された音楽も同じく、隙間が大きく取られた、おぞましさを感じさせるどっしりとした90年代的テクノサウンドとなった。

タコというコンセプトは奇抜に思えるかもしれないが、そこにはちゃんとした理由がある。「自分の内面で感じていることを絵で表すとタコになると思う」とKravizは語る。「当時、私は人生の中ですごく面白い時期を迎えていて、自分自身や周囲の物事が変わっていたときだった。みんなも以前とは違ってきていたわ。個人間の関係とかね。すべてが別のものになっていった」

詰まるところ、これはKravizなりの考え方だと言える。彼女の話が脱線しながら延々と続いても最終的にはちゃんと質問の回答へ至るのとちょうど同じように、трипのコンセプトが支離滅裂に思えても、その中核部分にはしっかりとした理由があることが多い。例えば『Ivan, Come On, Unlock The Box』というタイトルの"Box"とは、「未知なるものや、未知なるものに直面したときに抱く恐怖や不安のすべてを表していて、そんなときに何か行動を起こすには少し勇気が必要になる」ことを意味している。これは、おぞましいミステリーとピークタイムの狂騒を行き交う収録曲にぴったりのテーマだ。

若気の至りについて触れたMark Twainの一節から名付けられた『When I Was 14』をインタビューの話題として挙げた際、私たちはインターネットがどのようにして人々の意見を形成するのかについて長い時間にわたり議論となった。「インターネット上では、十分な理解が無くても、物事に対して意見をくだす権利を持っていると感じてしまう人がいる。事実とは違う私のイメージをどのようにみんなが抱いて、そのイメージをどんなふうに膨らませているのか、私はもちろん知っているわ」。レーベルから発表される速いテンポの強烈な音楽は、もしかしたらインターネット上で加熱する論議や、Kravizに対して意見をくだす人々への憤りを反映しているのかもしれない。

『Sleep Not Found』の場合はどうなのだろうか？こちらではツアーを行うDJに関連したテーマとなっている。同作の静かにゆらめく音楽は何度も繰り返される飛行機の滑走に相応しいサウンドトラックとなるだろう。実はこの点はレーベル名が示すトリップの一種であり、「夢と現実の狭間にいるような意識になる疲れた状態」を表している。「疲れていたり、タイムゾーンが変わったりして、こういう意識状態になると楽しくなることがあるでしょ。何かを創るにはこの状態はすごくいいの」

「ある意味、レーベルは私のパーソナリティを反映しているわ。音楽や世間一般に対する私の姿勢をね」とKravizは語る。そして、Трипのリリースは「制作時に感じていたことすべて」を映し出しているそうだ。

こうした奇抜な感情の物語を引き立てているのが、悪夢のような架空のキャラクターの数々が描かれるTomboのアートワークだ。『Sleep Not Found』では、彼が「骨」と呼ぶ、SFに出てきそうな筋張った手足と爪を持つ怪物が描かれている。『I Have A Question』に描かれた「黒い男」と呼ばれる人物は、「小さな球体の状態から周囲にあるものすべてを吸い込んで赤ん坊の姿へと進化するんだ。そして赤ん坊になると周りから経験や知識を吸収して大人に成長する。指には目が付いているんだ。その目は不安と好奇心に満ちていてすべてを吸い込もうとする」

鬱蒼とした衝動をブラックなユーモアに混ぜ合わせるTomboのイラストの多くは、拘束されることのない自己を表現しているかのようだ。Bjarkiの出世作「Arthur And The Intergalactic Whales」でのアートワークは、「たくさんの友達が一斉に揃っているところを見てみたい。すごいものになるんだったら何でもしてあげる」というKravizの刺激的な注文にTomboが応えたものだ。そして彼が考えたのが「sex forest」だった。官能的な唇を持つ木々を浮遊する「膣男」が眺める、というものだ。スリーブの裏側には、威圧的な森の端に立ち、乱交会場につながる道を探す口ひげを生やした人物が描かれている。

既に察しているかもしれないが、Kravizがレーベルからリリースするトラックを選別する方法も型破りなものだ。「いつも最初に『持っているものをすべて私に送って。嫌いなものも全部よ』って伝えているの。だって、その曲をもしかしたら私が気に入るかもしれないでしょ。あと、未完成のものもすべて送ってもらうようにしているわ。私が気に入りそうなものを考えちゃだめなの。私が気に入るものなんて絶対に分からないんだから」

трипから発表された2枚のコンピレーションに参加し、現在、同レーベルのアルバムを制作中だというTerrence Dixonは、彼女のやり方を認めている。「трипにはデモ状態のトラックを30曲以上送ってきたけど、その中から選ばれたのは2～3曲だった。もっとこういう感じのやり方が業界内で増えるといいと思う。Ninaは俺にもっと曲を送るように言ってくるんだ。最良の結果を出すためにね。もしかしたら『あなたならもっとできるでしょ』って意味かもな」

Trip

「彼女は相手から何かを上手く引き出す術を知っているんだ」とBjarkiも彼女に賛同している。定期的にтрипへ楽曲を提供しているExosはKravizの好みについて「予測不可能だね。ある種の純粋さ、シンプルさ、有機的な感覚がある音楽を彼女は主に探している」と説明する。

Kravizが好みの音楽を表すときによく使う表現として「作り込み過ぎない」というものがある。「完全にできあがっていないものって言えばいいのかな。完成した、と言うためには最後の仕上げが残っている状態というか。でも、私はその仕上げはいらないの。想像力が豊かなら、仕上げが無くても完成した状態だと思えるから。それに、こういう音楽をプレイできるようにしておくことはDJにとって欠かせないわ。未完成の音楽を使って自分自身で自分なりの音のレイヤーを作っていくんだから。もし曲が完成しきっていたら、もう手遅れってこともある」

Kravizはそうしたトラックを音源集として蓄えておき、何かアイデアが浮かんだときに引き出せるようにしている。現在、「膨大な量の音楽」が溜まっているらしく、そのすべてがリリースされるわけではないのだという。しかし、そのことでアーティストと軋轢が生じることもあるそうだ。

「トラックのサインは交わすけれど、いつのリリースになるか分からないってアーティストには伝えるようにしているの。適切なときが来るまで少し時間がかかることもある。正直、そのときがやって来ない場合もあり得るわ。しばらくして『もう1年が経ったけど、まだトラックが出てないじゃないか』っていう人もいた。でも、全然気にしないアーティストもいて、例えばそのひとりがBjarkiね。Bjarkiからたくさん音源を受け取っているけど、当分リリースされることがなさそうなものが結構あるかも」

Bjarkiはтрипの花形アーティストだ。трипからリリースするまで、彼は全くの無名だったが、今やテクノシーンで注目を集める新人アーティストとなっている。彼がтрипのことを知ったのは同郷アイスランドの友人Exosを介してのことだった（Exosは"Nuclear Red Guard"を『The Deviant Octopus』に提供したところだった）。Bjarkiは当時住んでいたコペンハーゲンでKravizのDJを聞きに行き、そこでデモの入ったUSBスティックを彼女に渡したのだった。それ以来、彼はレーベルのサウンド形成にとって重要な役割を果たしており、трипの作品ほぼすべてに参加している。その中には今年後半に発表された、目まぐるしいほどに革新的アルバム3枚が含まれる。

Bjarkiのプロデュース量は非常に多く、奇しくも彼とKravizの嗜好は非常に近いものがある。彼が再提案するテクノやIDMは昔のアイデアへ無邪気にひねりを加えたもので、レーベルの90年代指向を反映している。成長期が2000年代前半だったという彼は自身について「90年代サウンドとデジタル時代の未来的サウンドの影響が混ざり合っている」と説明する。彼の作品は粗く暫定的なサウンドで、まさにKravizが「未完成」と呼ぶスタイルだ。彼の音楽が持つ大胆なドラマ性は非常に突飛なものであったとしても、Kravizが頻繁にDJをする大規模な場所で機能し得るものだ。

彼は次のように語る。「作ったとおりに音楽を受け入れてくれるレーベルをずっと思い描いていたんだ。曲に手を加えて特定のスタイルやサウンドに押し込むようなことのないレーベルをね。ずっと前に友達から、僕の音楽はレイヤーがあり過ぎるから、他のテクノのレコードとは違うテクスチャーになっている、って言われたことがある。これは悪く捉えた人のケースだけど、Ninaだと僕の音楽を理解してくれるんだ。僕よりも理解しているかもね」

Bjarkiはтрипを家族的なつながりとして説明する。そう考えているアーティストは彼だけではない。трипの2作品に参加しているベテランプロデューサーのK-Handは、彼女自身もтрипのアーティストとしてみんなと一緒に世界を回る「家族型の関係」を称えている。「ただ音楽をライセンスするだけってレーベルもあるでしょう？その場合はずっと印税通知が送られてくるのを待ち続けるだけで、何年たってもそれ以外のことは起こらないし、アーティストは完全に停滞した状態になってしまう」

一方、Exosはтрипを通じて若手プロデューサーとの関係を築いてきたという。「DeniroとNikita（Zabellin）とはすぐに強い家族的なつながりを感じたんだ。今では一緒にコラボレーションをしているよ。Vladimir Dubyshkinともすごくいい関係なんだ。お気に入りのアーティストだし、大事な友達だよ」

Bjarki, Nina, Exos

こうした状態はKravizがずっと願っていたことだった。2009年のKravizのデビュー作をサインし、いつか自分自身でレーベルを始めることを進言していたJus-Edなど、いくつかの目立った例外を除けば、彼女は自分が頻繁に誤解され続けてきたと感じている。他の有名アーティストたちとは異なり、彼女を取り囲んできたのはチームではなかったのだ。

「正直、いばらの道だったわ」とKravizは語る。「誰も私と上手くいかなかったし、私がやっていることを100%理解してくれなかった。最初はそんなにサポートもなかったけど、今は自分のレーベルを通じて、サポートに恵まれない人たちの相手をする側になっているわ。レーベルに参加した途端に活躍し始めたり、曲をたくさん作るようになったりする人もいる。それに、仲間たちがやっていることに興味を持ち始めるのよ。そういうつながりと信頼関係を築けていること、受け入れられる心地よさを得られていることはすごく素晴らしいと思う。レーベルのアーティストは私がみんなの制作力を信じているって理解してくれている人ばかり。何年も前に私を信じてくれた人のように、私もみんなを本当に信じているの」

しかし、レーベルの"トリップ面"を握っているのはあくまでもKravizだ。ロシアの若手プロデューサーNikita Zabellinが言う通り、彼女は「レーベル特有の未知なるコンセプトの発信者代表」なのだ。трипは多様な考えから成り立っており、Kravizが認めるように方向性が「100%ハッキリと定まっていないときもある」が、言ってみればそれも彼女独自の感情を模索し、奇妙で実験的なテクノ作品に落とし込んでいるということなのだろう。

彼女は次のように語る。「私の感情を揺さぶるものじゃなければだめ。すぐに高揚させてくれるものでもなく、怒りを覚えるようなものでさえもなければ、それは私には必要ない。それが音楽を選ぶときの唯一基準にしていること。そうしていれば新たな発見に出会えることもあるんだから」

Label of the month mix

今回はミックスを担当したDJの情報とトラックリストを掲載していない。しかし、Roma Zuckerman、Bjarki、PTU、Nina Kraviz、Exos、Vladimir Dubyshkin、Nikita Zabelin、K-HAND、Biogenといったアーティストを抱えるтрипの”未知なるコンセプト”から生み出される音楽に期待せずにはいられない。

ツィオルコフスキー州立宇宙航行学歴史博物館とNatalia A. Abakumova館長のご厚意により、同館で写真撮影を行いました。